深夜の東京を走るタクシーの後部座席で、乗客が思わず本音をこぼしてしまう。運転席にいるのは、たいして愛想がいいわけでも、聞き上手なわけでもない女性です。
それなのに、彼女のタクシーに乗った人は、なぜか後になってその夜のことを思い出してしまう——。夜ドラ「ミッドナイトタクシー」で、その不思議なドライバー・蘭象子を演じているのが古川琴音さんです。
大声で場をさらう俳優ではありません。むしろ黙っている時間のほうが雄弁で、その「間」に目が離せなくなる。これが古川琴音という俳優の、最大の武器です。
「ミッドナイトタクシー」で最初に見てほしいのは、象子の“無表情”
「ミッドナイトタクシー」を初めて見る人に、まず注目してほしいのは、蘭象子の表情がほとんど動かないことです。乗客がどれだけ込み入った話をしても、象子は大きく驚かず、励ましもしません。この「動かなさ」こそ、古川琴音さんの芝居がいちばん光る場所です。
本作でリリー・フランキーさんが担当するナレーションは、象子を「特別話が面白いわけでも、特別気配りができるわけでもない」人物だと紹介します。普通なら地味になりかねない設定ですが、古川さんが演じると、その淡々とした佇まいがそのまま作品の空気になります。乗客との間に薄い膜を張りながら、必要最小限の言葉でベストな返しをひねり出す。その絶妙な距離感が癖になると、放送開始後のレビューでも評判になりました。
象子は都内のタクシー会社で深夜勤務専門を務める、後輩からも一目置かれる優秀なドライバーです。アフリカで生まれ、北欧を経て母の祖国・日本へ。幼い頃に自由奔放な母に捨てられ、伯母に育てられた——という、誰とも重ならない生い立ちを背負っています。そして間もなく30歳。人の人生の“通過点”にいるつもりだった象子自身が、自分の探しものを探し始める。この静かな揺れを、古川さんは表情を足し算ではなく引き算で描いていきます。
古川琴音さんのプロフィールと、脇を固める豪華キャスト
| 名前 | 古川琴音(ふるかわ ことね) |
|---|---|
| 生年月日 | 1996年10月25日 |
| 年齢 | 29歳(2026年7月時点) |
| 出身地 | 神奈川県 |
| 所属 | ユマニテ |
| デビュー | 2018年(短編映画「春」でスクリーンデビュー) |
| 主な受賞 | 第20回TAMA NEW WAVEベスト女優賞、第32回読売演劇大賞 優秀女優賞ほか |
古川さんが所属するユマニテは、安藤サクラさん、門脇麦さん、岸井ゆきのさんら「名前だけで存在感が伝わる」俳優を多く抱える事務所です。この系譜に連なる位置にいることが、古川さんの立ち位置を物語っています。
「ミッドナイトタクシー」は、象子ひとりの物語ではありません。象子を指名する常連客・柴崎八雲を中村蒼さん、象子を“しょうちゃん”と呼ぶ人気俳優・寿々木麗華を伊藤万理華さん、象子を育てた伯母で芸能事務所社長・蘭弥生を和久井映見さんが演じます。さらに象子の行きつけの喫茶「つかれしらず」のマスター・昼川源を竹中直人さんが担当。この面々との会話劇が、15分という短い尺に凝縮されています。
「春」と「偶然と想像」——静けさが評価された原点
古川さんの“動かない芝居”は、いきなり完成したものではありません。原点は、2018年のデビュー作である短編映画「春」にあります。認知症の祖父と暮らす美大生を演じたこの作品で、古川さんはTAMA NEW WAVEベスト女優賞を受賞。作品自体も国内外の映画祭でグランプリを重ねました。派手な展開ではなく、若い女性の言葉にならない感情を追う映画で評価されたことが、その後の役の選ばれ方を決めています。
転機を決定づけたのが、2021年公開の濱口竜介監督「偶然と想像」です。第71回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(審査員大賞)に輝いたこのオムニバスで、古川さんは第一話の主演を務めました。この現場で濱口監督から受けた言葉を、古川さんは後のインタビューでこう語っています。「1に相手。2に台本。3・4がなくて、5に自分」。相手のセリフを受け取り、自分の心が動いてからセリフを出す——この教えが、今の芝居に強く生きているのだと。
象子が乗客の話を受けたあと、すぐに答えを返さない。あの一拍の“間”は、濱口監督から受け取った「相手が先、自分は5番目」という演技論の延長線上にあります。「ミッドナイトタクシー」は、古川琴音の芝居の哲学がそのまま形になった作品とも言えます。
「コントが始まる」「海のはじまり」で見せた、透明感の“奥”
広く名前が知られたのは、2020年の朝ドラ「エール」、そして2021年の「コントが始まる」でした。「コントが始まる」で演じた中浜つむぎは、明るく振る舞いながら心の奥に折れやすさを抱えた人物。当時24歳の古川さんは、菅田将暉さん・有村架純さんら28歳世代の実力派の中に唯一の年少者として抜擢され、その緊張と存在感が話題になりました。
2024年のフジテレビ「海のはじまり」で演じた南雲水季は、登場時間が限られながら、物語全体の痛みを背負う存在として記憶に残りました。古川さんの役は、尺の長短で強さが決まりません。短い出番でも、その人物が抱えたものを画面に残せる。ここが「たくさん出ていないのに忘れられない俳優」と呼ばれる理由です。
透明感だけの俳優ではありません。やわらかい表情の奥に、少しの不穏さや寂しさを置ける。この“奥行き”が古川琴音さんの個性で、象子という掴みどころのない役に、これ以上ないほど噛み合っています。
写真集「CHIPIE」に写った、俳優としての“現在地”
2025年7月、古川さんは2冊目の写真集「CHIPIE(シピ)」を発売しました。これは単なるグラビアではありません。撮影地は、映画祭のために初めて訪れたドイツ・フランクフルト。写真家・松岡一哲さんが5日間密着し、映画祭の裏側や街での素の姿までドキュメントのように追った一冊です。
興味深いのは、古川さん自身が「主人公は、すごくわかったような気がするが結局何もわからない人というイメージにしたい」と語っていたことです。タイトルの「CHIPIE」はフランス語で“いたずらっ子・小悪魔”を指し、猫によく付けられる名前でもあります。何者かわからない女の子——このコンセプトは、そのまま蘭象子という役の“ミステリアスさ”と重なります。
制作の裏で、古川さんは「初めての海外映画祭で、常に『あなたは何者か』と問われている気がして、気持ちが混沌として孤独だった」と明かしています。そんな時期に撮られた一枚を見て、「見るのも怖かった自分の表情がこんなに綺麗に映っていた」「その時の自分をやっと愛おしく思えた」と振り返りました。俳優として広く知られてもなお、自分の輪郭を探し続けている。写真集「CHIPIE」は、古川琴音さんの“現在地”そのものを写した記録です。
2026年、古川琴音さんはどこにいるのか
近年の古川さんは、映画・ドラマ・舞台・CMを軽やかに横断しています。2023年は大河ドラマ「どうする家康」で千代を、2024年は「ACMA:GAME アクマゲーム」「海のはじまり」、映画「言えない秘密」で初のラブストーリーのヒロインに挑戦。舞台「Touching the Void 虚空に触れて」では読売演劇大賞の優秀女優賞を受け、映像だけの俳優ではないことも証明しました。
2026年は活動の幅がさらに広がっています。声優に初挑戦した長編アニメーション映画「花緑青が明ける日に」、そして主演を務める夜ドラ「ミッドナイトタクシー」。地上波連続ドラマでは、これが初主演です。短編映画から始まった俳優が、10年をかけて“帯ドラマの主役”までたどり着いた——その到達点として本作を見ると、象子の背中がまた違って見えてきます。
「ミッドナイトタクシー」の撮影中、共演した竹中直人さんが繰り返し口にしていた「人生一度きりだから」という言葉が、30歳を前にした古川さんに深く響いたそうです。象子を演じる時期だったからこそ刺さった、と。役と本人の現在地が静かに重なる、その偶然も含めて味わえる作品です。
年齢・大学・結婚・インスタなど、気になるところ
古川琴音さんは1996年10月25日生まれ、2026年7月時点で29歳です。神奈川県出身、所属はユマニテ。幼い頃からバレエを習い、その延長で中学・高校の演劇部に入部、大学でも演劇を続けたことが俳優への入り口になりました。
大学については、公式プロフィールに具体的な学校名の記載はありません。学生時代から演劇に打ち込んでいた経歴は語られていますが、学校名を断定する材料は公式には出ていないため、ここでは踏み込みません。
結婚についても、公表された事実はありません。役柄で妻や恋人を演じることと、本人の私生活は別の情報です。なお、私生活では「ムー」という名の保護猫(2歳)と暮らしていることを、写真集の会見で明かしています。猫好きが高じて、写真集のタイトルにも猫の名前を選んだほどです。SNSは所属事務所の公式プロフィールから本人のInstagramにたどれます。
FAQ
古川琴音さんは「ミッドナイトタクシー」で何役ですか?
主人公・蘭象子(あららぎ・しょうこ)役です。深夜の東京を走る、少しミステリアスなタクシードライバーで、乗客の心にそっと触れていく人物。古川さんにとって地上波連続ドラマ初主演作です。
古川琴音さんは何で有名ですか?
ベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞した映画「偶然と想像」の第一話主演、朝ドラ「エール」、「コントが始まる」の中浜つむぎ役、「海のはじまり」などで知られています。デビュー作の短編「春」での受賞も、評価の原点として重要です。
古川琴音さんは結婚していますか?
結婚を公表した事実はありません。私生活の未公表情報を憶測で断定せず、出演作や公式発表を中心に追うのが自然です。
写真集「CHIPIE」はどんな内容ですか?
2025年7月発売の2冊目の写真集です。映画祭で訪れたドイツ・フランクフルトでの5日間を、写真家・松岡一哲さんがドキュメントのように密着して撮影。演出されたグラビアではなく、古川さんの“素顔”と揺れる感情を写した176ページです。
まとめ——夜のタクシーで、古川琴音の芝居が主役になる
古川琴音さんは、短編映画「春」で評価を受け、「偶然と想像」「コントが始まる」「海のはじまり」と、静かな存在感を積み上げてきた俳優です。声を張らず、表情を引き算し、黙っている時間で人物の内側を残す。その芝居の哲学が、地上波連ドラ初主演となる「ミッドナイトタクシー」で、ついに“主役の座”に座りました。
本作で見るべきは、主人公らしい派手さではありません。乗客の話を受けたあと、すぐに答えを返さない、あの一拍の沈黙です。夜のタクシー、たった15分、静かな車内。その限られた空間で、古川琴音さんの細い表情の変化が、まぎれもなく主役になります。

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